"photobashiru" ...

写真を中心に、ほとばしってるものを。

珈琲(味わいの変化)

貧乏性なので、一杯分の珈琲を淹れた後、
もう一杯分の出がらしの珈琲を別のカップに淹れる。
焙煎後一週間以内の鮮度の良い、焙煎も適切に行われた豆であれば、
出がらしと言ってもそれほどまずくはない。
珈琲というよりは、ほうじ茶に近いような、薄い飲み物になるので、
トーストやチョコレートなどを食べながら飲むのに丁度良い。
それを飲み終わってから、最初の一杯を飲み始めると、
びっくりするほど濃厚な芳醇な香りが広がるので、これは珈琲だけでじっくりと味わう。
もちろん、砂糖やミルクは加えない。
なぜここまで違いが出るのかというのを考えると、
最初に飲んだ出がらしの一杯との濃度の違いがまず挙げられると思うが、
どうやら飲む時の温度が関係しているらしいことに気づいた。
そこで、温度計で温度を測りながら、味わいの変化を調べてみた。

珈琲の抽出を行う際には、沸騰したての 90-95 ºCくらいの温度のお湯を使用するが、
これがカップに注がれた時点では、
珈琲カップやドリッパーなどに熱が奪われたり、
抽出中の 4 分程度の間に空気中に放熱されることで、
すでに 85 ºC 程度まで温度が下がっている。
これは実際、飲もうとすると熱すぎる温度であるが、
85-70 ºC(人によっては 60 ºC 以上)というのが、
「熱い珈琲」と言って良いのではないだろうか。
熱い時には、酸味や甘味は感じにくく、苦味は少し感じやすい。
そのため、良い苦味のある珈琲は、熱い状態で美味いと感じることがある。
その後、少し冷めて、60-50 ºC くらいになると、
「温かい珈琲」あるいは「少しぬるい珈琲」であるが、
酸味や甘みなどの珈琲の芳香が劇的に引き立ってくる。
私はこの温度帯で飲むのが好きである。
この温度帯における味のバランスによって、
焙煎の仕上がりと珈琲の味わいの関連性を判断することにしている。
さらに温度が下がり、「完全に冷めた珈琲」になると、
甘味は感じることが難しくなるが、苦味や特に酸味は強く感じることができる。
そのため、良い酸味を持つ珈琲は冷めても美味いと感じることがある。
一度冷めてしまった珈琲でも、
「温かい珈琲」くらいに再度温めてやると甘い芳香が復活する。
(冷却と再加熱を何度も繰り返してどうなるかは、まだ試したことがない)

ドリップによる抽出段階によって味わいが変わるのかということにも興味を持ったので、
100 mL 程度ずつ 3 段階に抽出を分けて取り、味わいを比較してみることも、
焙煎した豆のそれぞれについて行うことにしている。
最初の抽出分は最も濃厚で、良い苦味·酸味·甘さが凝縮されている。
特に、良い苦味はこの最初の段階に集中しているようである。
中間の抽出分は、良い苦味成分は少なくなり、
全体的な味わい、つまり、濃度が最初の抽出分よりだいぶ薄まるが、
甘味や酸味は十分に感じられる。
最後の抽出分は、かなり薄くなり、珈琲というよりはお茶のような味わいになってくるが、
炭のような好ましくない苦味がある場合には、強くそれが感じられるようになる。
ドリップの場合、注いだお湯がすぐに下に落ちてしまうので、
必然的に湯との接触時間が短くなりがちである。
ドリップの初めに蒸らしと呼ばれる作業を行うと、味わいを少し変えることができる。
下に落ちない程度の少量の湯を加えて、
しばらく置いておくことによって、湯との接触時間を長くすることができる。
このようにすることによって、良い苦味をより感じられるようになる。
つまり、蒸らしを行わなければ、
熱い状態でほとんど苦味を感じないすっきりした味わいになるのに対して、
蒸らしを行えば熱い状態でしっかりとした苦味を感じられる。
酸味は蒸らしにはそこまで影響を受けないように感じる。

クレバードリッパーというものを使うと、お茶を入れる時のように、
一定時間お湯の中に挽いた豆を浸漬させて抽出させることができる。
この方法は浸漬(しんし)法と呼ばれるが、
ドリップと比べると若干薄い仕上がりになる。
実際、一杯目を抽出した後にもう一度お湯を加えて抽出すると、
ドリップの時の出がらしよりは若干濃いものが抽出されてくる。
凝縮感があり味わいをコントロールしたい時はドリップを使用し、
バランスのとれた珈琲を他の料理の作業などと平行して淹れたい時には
浸漬法で淹れると手間が少ないので良い。

苦味と甘さが共存するとき、甘さは苦味に負けてしまう傾向がある。
苦味もあり、甘さも感じられるような焙煎度合にすることは可能である。
しかし、苦味がほとんどなく甘さが強く感じられるような浅煎りに比べると、
苦味のある中煎りから深煎りでは甘さの度合いが少なく感じるようである。
酸味と甘味は共存することができる。
珈琲の酸味というのは、レモンのような柑橘系の果物のフレッシュ感のある酸味とは
少し性質が異なるような気がする。
もっと複雑で、ワインに含まれるタンニンのような渋味を
もう少しマイルドにしたような感じである。

半年前までは、あまり味わいの違いが分からないと思っていた珈琲であるが、
自分で焙煎を行ってみるとその味わいが実に多様であることが分かってきた。
酒や葉巻のような嗜好品と同様、
慣れ親しんで初めて理解できる深みというものが珈琲にはある。