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写真を中心に、ほとばしってるものを。

K-3 III とオールドレンズ -No.10- (2023. Mar.)

前回に引き続き、PENTAX K-3 III と Super-Takumar 55mm F1.8 の組み合わせ。

絞りは開放 F1.8 縛りである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

前 2 回がモノクロ表現だったので、今回はカラー表現である。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

上の写真の後ろのはヒメジョオンだろうか。全く狙っていなかったが、奇跡的に美しいボケである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

緑色のカラスノエンドウはいつも美味しそうだなと思っていたのだが、どうやら食べられるようである。しかし、採集して食べてみようとまではならない。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

モノクロも楽しいが、やはり色があるとそれだけで気分が上がる気がする。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

それにしてもずいぶん暑くなった。虫達も活動を始めたようだ。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

このレンズはもちろん中古で買うことになるのだが、その時に前期型か後期型かという議論がある。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

後期型は「アトムレンズ」と呼ばれ、屈折率の性能向上とか色収差低減の目的で「酸化トリウム」という放射性物質が10-30%含まれたガラス(超低分散光学ガラス)が使用されているそうである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

しかし、このトリウムガラスは経年で黄色っぽく変色してしまうので、前期型の方が重宝されているようである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

私も前期型をネットで探してみたものの、見つからなかったので後期型を入手した。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

レンズを見ると明らかに黄ばんでいる、というか、茶色に近いだろうか。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

この黄ばみのせいで、画像の色が褐色っぽくなる事がある。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

全ての画像がそうなっているわけではないので、ホワイトバランスの補正がうまく働いているのかもしれない。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

バランスが悪い時は画像編集で調整してましになることもあるが、どうしても気になるときはモノクロにしてしまうしかない。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

上の写真、何気なく撮った割に案外綺麗だなと思う。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

デジタルカメラであれば、レンズの黄ばみの問題にもいろいろと対処方法があるけれども、フィルムカメラで撮ろうとなると難しそうである。モノクロフィルムなら関係ないのかもしれないが。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

上の写真、モノクロでも良かったがカラーでも瑞々しさがあってよい。今回のベストショットかもしれない。繰り返しになるが、絵面はずいぶん地味である。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

このレンズ、最短撮影距離が 45 cm ということで、割と寄れるのも良い。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

絞り羽根は 6 枚、絞った時は玉ボケが六角形になるのだと思うが、開放では当然ながら丸い。やはり玉ボケは丸い方が好きである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

因みに、レンズに含まれている酸化トリウムは、融点が酸化物中で最高(3300 ºC)なのだそうである。(Wikipedia より)

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

酸化トリウムのトリウムが放射性元素で、トリウム 232 が天然存在比 100% で、天然には安定同位体は存在しない。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

トリウム232 は α 線 を放出して、ラジウム228 になるが、この半減期が 140 億年ということである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

つまり、元々レンズに含まれていたトリウムの量が半分になるのに 140 億年かかるということであるが、50年くらい前のレンズだと言っても、トリウムの量はほとんど変化していないだろう。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

このトリウムの崩壊生成物放射線からの被曝の影響を考慮されて、現在では放射性でないランタノイドに置き換えられたそうである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

トリウムが崩壊する際に出てくるのは α 線で、これはヘリウム 4 の原子核(陽子2つと中性子2つから成る粒子)と同じ粒子である。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

α 線 の粒子は重量が重く、物質透過性が低いので、紙一枚で止まる。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

半減期と合わせても、トリウム自体の崩壊による被曝のリスクは少なそうである(ただし、外部被曝の話で、体内に入ると常に α 線に細胞が晒されることになるので内部被曝によるリスクは高いと言える)。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

トリウムが崩壊した後には更に放射線を放射しながら、安定同位体の鉛208 になるまで崩壊が続いていく(トリウム系列)。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

その際に出てくる放射線は α 線だけでなく β 線も含まれている。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

β 線の粒子は電子であるので、重さが α 線の 1/7000 くらいである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

そのため、α 線が空気中で数 cm 程度飛ぶのに対して、β 線は空気中で数 m 程度飛ぶ事ができる。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

多少飛距離が長いと言っても、常にレンズを近くに持っているわけではないので、被曝量は少ないだろう。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

使用している際には、β 線を浴びることにはなるだろうが、体表から数 mm の範囲の細胞がエネルギーを受ける程度だろう。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

つまり、α 線と β 線が常にレンズから出続けていることになるが、外部被曝についてはそれほど気にする必要はなさそうである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

ただし、α 線と β 線のどちらも内部被曝についてはリスクが高そうであるので、トリウムガラスが体内に入った場合は注意が必要である(そんなことはほとんどあり得ないと思うが)。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

トリウム系列の中で、ラドン220 があり、ラドンは気体なのでこれを吸い込んだ場合に内部被曝の主要な要因となるとされているが、トリウムガラスの場合、トリウムがガラスに封入されている状態である訳だから、生成放射性物質は外に出て来れないはずである。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

上の写真、玉ボケが大変美しく出ている。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

トリウムの健康への影響はほぼ無いと言ってよいのでどうでもよいとして、使用者としての問題はガラスが褐色になってしまうことである(ブラウニング現象と呼ばれるらしい)。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

上の写真、逆光気味でゴーストが発生している。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

ガラスに色が付く原理はよく分からないが、トリウム系列の壊変の過程で、電子や He 核が飛び出しているのだから、ガラス内で電荷が偏った部分が存在し、そこが色を示す原因になっているのかもしれない。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

興味深いことに、この黄変したレンズに紫外線をしばらく照射すると、元の透明なガラスに戻す事ができるという情報がウェブ上で紹介されている。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

これも原理はよく分からないが、可視光よりもエネルギーの大きな紫外線を吸収することで、電荷の偏りが生じていた部分に何らかの構造変化が起きたのだろうか?

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

何しろ、透明に戻るのであればこれは大変有用なことで、トリウムガラスの利点のみが残ることになる。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

いわゆる「ぐるぐる」ボケが抑制されたり、色収差が抑制されるという効果が絶大だったため、しばらくの間トリウムガラスを使用したレンズは作られ続けたらしいのだが、時間が経ってからブラウニング現象が起きることが分かったという事である。

Camera: PENTAX K-3 III, Lens: Super-Takumar 55mm F1.8

しかし、上の写真を見る限り、レンズが褐色のままだとしても、条件次第ではほとんど影響がなさそうである(色に異常が出る条件についてはまだ不明)。