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写真を中心に、ほとばしってるものを。

シングルモルトウィスキー

 たばこにしろ、酒にしろ、その楽しみの本質は香りである。香りを感じる能力というのは、その人自身が生まれ持った嗅覚の良し悪しというのもあるのだろうけれど、経験とか訓練によって磨かれる部分がかなり大きいのではないかと思う。シングルモルトウィスキーは、酒の中でもそれぞれの酒の個性が強いため、違いが分かりやすく、鼻を鍛えるにはもってこいである。

 各蒸溜所は、オフィシャルスタンダードと呼ばるものをリリースしていて(12 年 や 16 年など、熟成年数にグレードがある)、比較的手頃な価格で入手できる。オフィシャルスタンダードはブレンダーによってその蒸溜所を特徴付ける味に調整されているので、これを繰り返し味わうことによって味を記憶していくと、だんだんと違いが分かるようになってくる。熟成年数が長くなると、不思議だがアルコール度数が高いものでも、アルコールを感じないマイルドな味になる。

 だいぶ経験を積んでから、Bar に行くようになった。私はいつも 3 杯までと決めているが、最初はカクテルとか水割りとか軽いものからはじめて、2 · 3 杯目に少し良いものを勧めてもらっている。これらは、オフィシャルスタンダードとはまた別次元の美味さであり、今まで自分がのんでいたものは何だったのかと思う。

 ウィスキーに関して不思議なのが、空気や水の影響である。グラスに入れてすぐの時はまだ香りが固かったものが、時間が経つと香りが開いてくる。これはグラスに注いだものだけでなく、瓶の中のウィスキーにも当てはまることで、抜栓してすぐはまだ固いが、瓶に空気が入った状態でしばらく放置しておくと、いつの間にか香りが開いて美味くなっているということがしばしば起きる。このような理由で、ウィスキーは一本の瓶を呑みきって次の瓶を開ける、というよりは、たくさんの瓶を所有して並行して少しずつ呑んでいく方が良いと思われる。水を加えることで、香りが大きく開くというタイプもあれば、加水に合わないタイプもあるようだ。シェリー樽で熟成されたものは、どちらかといえば加水に合わないかと思いきや、驚くほど伸びることもあるので、一概には言えない。

 ウィスキーの特徴には樽の個性が大きく影響する。それぞれの樽の特性、樽が置かれた環境などによって、影響は微妙に変わるだろうから、ウィスキーの熟成過程には偶然の要素がかなり入ってくるのではないかと予想される。このようなそれぞれの樽ごとに個性的な原酒をブレンドする訳だから、一つの蒸溜所にしてもその味は無限に作り出すことが可能であるということになる。そんなものを全て呑むことは現実的に不可能であるから、ウィスキーとの出会いは一期一会であって、今日はこんな美味いウィスキーに出会えたなというシンプルな感想しか出てこなくなる。というか、そうしないことには大変なことになるから、そういうことにしている。