"photobashiru" ...

写真を中心に、ほとばしってるものを。

色彩

 夕暮れ時、私はベランダに出て、椅子に座り葉巻に火をつけた。まだ明るい。眼前に横たわる水面の向こう側には山の丘陵に沿って家々が均整に並んでいてあるパターンを形成しているようである。この時間帯に特有の光の効果によって深い緑と青の色合いが実によい味を出している。特別な風景ではないけれど、ある特定の魅力に惹かれてシャッターを押したくなることがある。「急いでカメラを取りに行かなくては ... 。この色合いも刻一刻と変化してしまうだろうから... 。」と思うが、手には火をつけたばかりの葉巻があり、「部屋に臭いが移ってしまうのはちょっとな... 。」とためらっている。そう思いながら葉巻を吸っていると、「なんだか薄味だな... 。」と思い、よく見ると、5本くらいの葉巻が平たい束になっているが、吸い口が一つになったような奇妙な形状を有している。

 いつの間にか視界が暗くなり、夢を見ていたのだと気付いた。「今のが夢か」と、私はまだはっきりと覚醒していない混濁した意識の中でもはっきりと思った。「あの風景の詳細さ、色の美しさは現実と何も変わらないではないか」と。

 年齢を重ね、妙に細部がはっきりした夢を見ることがごくたまにある。今回のように色彩がはっきり感じられることもあるし、フワフワ空を飛んでいるような時には重力のようなものを感じることもある。映画のように場面が次々に展開されていくこともある。印象的な夢を見るのはどんな時かというと、どうも前日に普段とは異なる頭の使い方をしたような時が多いような気がする。これらの体験自体はとても楽しいものなのだが、なかなか目が覚めないという問題がある。子供の頃には、夢はとても曖昧なもので、色が付いていたかどうかもよく分からなかったのだが。しかし、香りはまだ充分でないように思う。そのうち、夢で美味い葉巻が吸えるようになるのだろうか。

 それにしても、不思議なのは起きて思い出そうとすると、どんどん内容や細部が記憶から消えていくことである。今書いている段階で、あの風景が海だったのか湖だったのかすら思い出せない。