"photobashiru" ...

写真を中心に、ほとばしってるものを。

葉巻(シガー)

 葉巻はその状態の管理が非常に重要だと言われる。乾燥しすぎても、湿りすぎていてもいけない。葉に適度な湿気がなくてはならない。湿気と言っても手で触った感じでは乾いているように感じる程度である。葉に含まれる水分が喫煙時に水蒸気となりこれと一緒に香り成分が気化する。このような煙がうまいらしい。また、葉巻にも熟成というのがあるらしく、恐らく、乾いた状態よりも水分が含まれていた方が熟成が効率よく進むのだろう。葉巻に含まれる成分が分解や変化する過程で媒介となる水があった方が良いのだと思われる。乾いていると、ラッパーと呼ばれる一番外側に巻いてある葉が崩れてしまうという問題もある。そんな訳で理想的な葉巻は湿気を帯びており、火がつきにくい。

 最初にラッパーで包まれた吸い口をカッターで切る。ラッパーは薄い葉なので、簡単に切れるが、何種類か方法があって、パンチのようなもので穴を開けたり、V字にカットしたり、一番オーソドックスなのはフラットにカットする方法である。好みの問題だが、通気性の面からフラットが無難かと思う。火をフットと呼ばれる一番下の部分(吸い口の逆側)を満遍なく火であぶってやる。シガレットは吸いながら着火することが多いが、シガーの場合は吸わずに着火するのが一般的である。これは単純に見た目の美しさの問題だと思われる。葉巻を吸うときには所作の優雅さ、美しさも重要視されるのである。着火には少し時間がかかり、フットの淵が白くなるまで十分にあぶってやる。この時、慣れていないとラッパーを黒く焦がしてしまうことがあり、見た目によろしくないので注意が必要である。簡単に火をつける別の方法は、細い炎が出るライターを使い、フットの円周に沿うかたちで淵だけに着火する方法である。この方法だと、火は断面に対して平行であるので、ラッパーを焦がす心配もなく、短時間で着火できる。中心部は吸っているうちに熱が伝わり自然に燃焼するようになる。火がついてくると葉巻のよい香りが部屋に充満してくる。着火できたら、手で軽く振ってやる(温度計を振るような感じで、しかしそんなに強くは振らない)。これは燃焼を進めているということだと思うが、儀式のようなものである。葉巻を吸う際のこういった所作が私は好きである。

 一口目のビールが美味いのと同様に、吸い始めの葉巻はどういう訳か美味く感じる。その後、渋さを感じることがある。BAR 等でゆったりと吸っている時は渋さを感じないので、これは燃焼速度の問題かもしれない。クールスモーキングという言葉があるように、燃焼温度が高いといろいろな雑味を感じるようになる。ゆっくりと吸って温度を適度に保つのが良い。葉に水分が含まれるので、これが蒸発する際に気化熱が奪われ、温度は下がる傾向にあるはずである。だから葉巻は放っておくと簡単に火が消えてしまう。しかし、火が消えるのを恐れて、頻繁にスパスパとやっていると、燃焼速度が上がり美味い煙は吸えない。見た目にもあまり優雅とは言えない。火が消えたら着火しなおせば良い。

 葉巻によってその香りのパターンは様々で、吸い終わるまで一貫して変化に乏しいものもあれば、刻一刻と変化していくものもある。時々、不意に蜂蜜のような甘い香りを感じることもあれば、アンモニアのような香りが良いアクセントになっていることもある。吸い込んだ時に口の中で感じた時の香りと吐き出した時の香りが異なると感じることもある。同じ銘柄の同じ大きさのものでも、状態や熟成年数によってフレーバーは変化する。葉巻は好きなものを吸い続けるというよりはその多様性にその楽しみがあるように思う。葉巻を選ぶ基準になるのは、味が濃いか薄いか(重いか軽いか)、ニコチンが強いか弱いかという点があり、これは銘柄によってある程度決まっている。葉巻の大きさ(長さと太さ)は、大きなものほど味が繊細で柔らかくなる。小さなものでもニコチンの多い葉がブレンドしてあるものはアタックが強いので注意が必要である。長いものほど品質は高い傾向にあるように思うが、喫煙時間が長くなるので最近は小さなものが流行っているようである。

 葉巻を吸っていると、時々片燃えと言って片側だけ燃焼が速く進んでしまうことがある。原因はよく分からないが、吸い方とはあまり関係がなさそうである。たまたま、その葉巻の巻き方に偏りがあったのか、あるいは保存状態の問題で片側だけ水分の量が少し多かったという可能性が考えられる。片燃えしてしまったら、早い段階で燃焼が遅れている側をライターで燃やしてやった方が良い。灰は指の関節くらいの長さまでならば落ちることはないので、そのままにしておく。少し長くなったと思ったら灰皿に軽く押しつけてやると形状を保ったままぽきっと折れる。(葉の産地によっては灰が非常に柔らかいこともあるので、この際にはある程度の頻度で落としてやる必要がある。)吸い終わった後、灰の塊が三つか四つころっと小綺麗に並んでいるのを見るのは気持ちの良いものである。

 最後にもう熱くて持っていられなくなったら、そっと灰皿におく。火は自然と消えてしまう。