"photobashiru" ...

写真を中心に、ほとばしってるものを。

葉巻の保管

 葉巻の保管はどのような条件が適しているのか、この話題には、葉巻を喫煙する際に葉巻に含まれているべき水分の量という観点と、熟成の進みやすさ(好ましい変化をするという意味で)という観点の2つの側面がある。これら2つの条件は微妙に異なるという意見もあるが、一般的には気温 20 ºC(あるいは 16~18 ºC)、湿度 70% といったものである。

 気温 20 ºC 以下というのは、恐らく葉巻に含まれる揮発性の成分が高い温度だと飛んでしまい、風味を損ねるという理由と、温度が高いと熟成の進行は速くなるもののその質において劣るという理由であろう。逆に温度が低すぎると熟成はほとんど進まないので、適度なところが 20 ºC 前後なのだろう。

 温度を指定するもう1つの理由は湿度が重要だからである。ここで言う湿度とは、相対湿度のことで、ある気温の空気が含むことのできる水分量のうちどれくらいの水分が実際に存在するかを意味する。空気が含むことができる水分量は気温によって変化し、温度が高い程多くの水分を含むことができる。先の条件においては、1 立方メートルの空気中におよそ 10 g の水が含まれているということになる。冬になって気温が 10 ºC 以下になると空気が含むことのできる水分量は半分程度になってしまうので、同じ湿度 70% だとしても実際に含まれる水分の量は 20 ºC の時の半分になってしまう。

 葉巻の保管には、ヒュミドールと呼ばれるスパニッシュシダーという木材を使用した機密性の高い箱が用いられる。外界との空気のやり取りを遮断するのと、木材自体が水分を吸収·放出するので、箱の開閉に伴う湿度の急激な変化に対して緩衝作用を有する。問題は、箱の木材だけでなく葉巻自体も水分を吸収·放出し、それぞれが水分を引き付け合う力の強さは微妙に異なるはずであるから、湿度 70% を維持するのは技術的に極めて困難だということである。単純に水が並々と入ったコップを入れておけば葉巻自体はどんどん水分を吸収して、湿ったダンボールのようになってしまうだろう。

 湿度の確認には湿度計を用いるが、湿度の測定自体ある程度の誤差を含むものであることを理解しておかなければならない。アナログ式の安価な湿度計の多くは、「バイメタル式」と言われ、湿度によって伸縮する素材と伸縮しない素材を貼り合わせたものをゼンマイ状に巻いたものである。物理的な構造変化をメーターに反映させているので、誤差の小さい湿度範囲と誤差の非常に大きい湿度範囲が存在する。(また、温度が変化した時にどれくらいの誤差が生じ得るのかという疑問もある。)この湿度計は調整が必要で「飽和塩法」というものを利用する。飽和食塩水(固体の食塩が十分に存在する状態)を機密容器に入れて十分な時間をおき平衡状態(水の蒸発と液化のスピードが釣り合っているために見た目上変化がないように見える状態)に達した時に相対湿度が約 75% になることを利用する(湿度 75% は湿度計の誤差が小さい範囲に入っている)。(この方法を湿度管理にそのまま利用できれば楽なのだが、湿度 75% ではやや過加湿気味になってしまう。)デジタル湿度計では、感湿剤に吸収された水分の量によって電気の流れやすさが変化することを利用して、抵抗の変化で湿度を計測している(アナログ式より反応が速いと言われる)。

 そんなわけで、湿度管理はあまり神経質になりすぎても仕方がないと思うが、幸い良い商品が開発されている。一番楽なのは、ヒュミディティバッグという楽器を保管する際の調湿に使用されるもので、決まった湿度を保つように水分を吸収·放出してくれる。半年くらいで取り替える必要があるそうだがこれが一番楽である。シリカゲル製の調湿ビーズというものもあるがこれは水を時々加えたりと少し難しい点がある。

 

 

 過加湿状態の葉巻は、火が付きにくかったり、火を維持しようとして火の燃焼温度が高くなりがちであるといった喫煙時における不都合が生じる。葉巻の熟成という観点からは、他に、光にさらさないとか、空気の循環をなるべく避ける(空気を入れ替えない)と言われることがある。完全に推測の話になってしまうが、嫌気条件下で糖の分解が起きるとエタノールが生じ、エタノールはさらに酵素の働きによりアセトアルデヒドを生じる。アセトアルデヒドはタンニンの高分子化の際に重要であるから、渋さがなくなる過程には嫌気条件が重要なのかもしれない。